語源探究第5回は、先日OSD特別セミナーで扱った2022岡山大学第1問で登場したprosecutionから、ストーリーを紡いでいきます。
ゴーストネットによるゴミの島
ハワイ諸島とアメリカ西海岸のカリフォルニアの間に、ロープやブイなど大量の漂流ゴミが集まっている海域があります。日本の国土面積の4倍にもなるゴミの島が太平洋を浮遊しているのです。この一帯は「太平洋ゴミベルト」と呼ばれており、東日本大震災による大量の漂着がれきもまた、このゴミの島にたどり着いていると言われています。その処理に追われたアメリカ・カナダ両国に日本政府は見舞金を送っています。北太平洋海流(North Pacific Current)や黒潮(the Japan Current)によって大きな還流が形成され,漁網(“ghost nets”)などのゴミを回収しなければ、海中生物の被害が永遠と続いてしまうわけです。
ナショナルジオグラフィックの記事を紹介します。やさしい英語で書かれているので目を通してみてください。時間がない方も、3分弱の動画だけでも見てほしいと思います。https://www.nationalgeographic.com/environment/article/partner-content-prada-renylon-wellington-new-zealand
さらに前へ! prosecuteからexecuteへ「続いていく」
では、prosecutionが登場した部分を抜粋します。
Experts believe many nets are lost accidentally, but boats occasionally leave behind nets to avoid prosecution when fishing illegally. Other fishermen cut away portions of damaged nets instead of returning them to shore.
下線部周辺の大意は「違法操業している漁船がprosecutionを回避するために、漁網を海に捨ててしまうことが時々あるし、損傷部分だけを切断して海に放置する漁師もいる」ということ。ここでのprosecutionの意味は「告発」でしょう。prosecuteは,pro(前方へ) + secute(ついていく・追跡する)ことから「研究調査・事業などを遂行する・継続する」という意味になります。法律の文章では「逮捕した容疑者を起訴する」となります。一度起訴されると日本の刑事裁判では有罪率が99.9%と聞いたことがありますか? TBS系列(岡山ではRSK)の日曜劇場で嵐の松本潤さんが主演をつとめたドラマのタイトルにもなっていました(99.9 刑事専門弁護士)。検察側は起訴した先(pro)を、例えば世間を震撼させた事件ならば、その被告人は必ずや極刑(death sentence)になると、先が見えているのでしょう。刑が確定し収監された死刑囚は自分の犯した罪の重さと向き合いながら、執行の時を待つ… この「死刑執行」を意味する単語がexecuteです。原義はラテン語exsequi(墓へ続く)です。ex(外へ) + secute(続く)です。死刑制度が廃止されている国が多いなか、実はexecuteは使用頻度が高い単語なのです。逮捕した犯人を死刑執行までプロセスを順々に続けていくのと同じように、executeは「一連の過程を最後までやりきる・完遂する」という意味で用いられるのです。
CXO=領域Xにおける最高責任者
会社の取締役や幹部のことをexecutiveといいます。受験生ならばもうマスターしている単語ですね。企業の最高経営責任者のことをCEOと呼びます。聞いたことがありますか? これはChief Executive Officerの頭文字をとったもの。CEOのほかにEのところに別の単語を入れることで、部門ごとの最高責任者を表せます。「CXO=領域Xにおける最高責任者」とタイトルに書いたのはそういう意味です。
・CEO=Chief Executive Officer 経営方針や経営戦略を策定する最高経営責任者
・COO=Chief Operating Officer 会社全体の業務執行の責任をもつ最高執行責任者
・CFO=Chief Financial Officer 「お金」にまつわるすべてを統括する最高財務責任者
・CTO=Chief Technical Officer 技術開発の方針を決定する最高技術責任者
・CMO=Chief Marketing Officer 部門ごとのマーケティング業務を機能的かつ能率的に連携し統括する最高顧客市場分析調査責任者
さまざまなCXOのほかにも、テレビや映画のチーフプロデューサーを意味するexecutive producer、法的拘束力のある行政命令はexecutive order、そしてこの記事を執筆しているOSD岡山進学でざいんの代表は、自分のことをこっそりCDO=Chief Design Officerと呼ぶことにしています。その名に恥じないように、みなさんの志望大学合格に向けて戦略的なデザインを設計・提案していきます。
さあ、これまで紹介した英単語を、OEDの定義で復習して仕上げといきましょう!
ずっと追い続ける、追われ続けたら「苦しい」
と、その前に、もう少しだけ、関連語を追求してもいいでしょうか? prosecuteと綴りがよ~く似ているpersecuteにも触れさせてください。
per(ずっと) + secute(追いかける)ことから、persecuteは「特定の信条や礼拝様式を守るため、また、ある考えを固辞するために、他者を(徹底的に)抑圧・迫害する」という意味です。ウィズコロナ時代で私たちの生活は大きく変わりましたが、そうした中、国内の社会不安や行き場のない怒りを、隣国や少数派の人々をスケープゴートすることで発散させようとする動きが各国リーダーに見られ始めています。スケープゴート(scapegoat)とは意図的にある集団に責任転嫁をして悪者に仕立て上げること。SNSやメディアの力でそれが拡散・過熱すれば、ヘイトスピーチやヘイトクライム(hate speech and hate crime)、そして特定集団への迫害(persecution)へとつながってしまいます。一度弱い立場となって迫害とまではいかずとも、いじめられたり暴力を振るわれたりすると、その辛さや悩みはずっと続き、その人を苦しめます。思春期を生きる多感な10代の皆さんは思い悩むことも多いはず。persecuteには「~を悩ませる・苦しめる」という訳もあります。その例文を一つ挙げておきます。オーストリアの作家ライナー・マリア・リルケ(1875-1926)の「若き女性への手紙」からの引用です。
Why do you want to persecute yourself with the question of where all this is coming from and where it is going? Since you know after all that you are in the midst of transitions and you wished for nothing so much as to change. (Riner Maria Rilke)
「物事の出どころや向かう先について問い続けて、なぜ自分を苦しめようとするのか。だってあなたは成長の真っただ中にいて、自分は変わりたいと切に願っているのでしょう?」
移民や難民へ厳しいスタンスをとる極右政党がヨーロッパで票を伸ばしています。平和を希求する地球市民の一人として、極右政党が台頭し、移民や少数民族が虐げられる世界が広がらないことを祈るばかりです。
まとめ
それでは、今日紹介した単語を整理します。日本語訳のあとに英語の定義も併記します。
- persecute
- 迫害する=subject (someone) to hostility and ill-treatment, especially because of their race or political or religious belief
- 悩ませる=harrass or annoy (someone) persistently
- prosecute
- 起訴する=conduct legal proceedings against (a person or organization)
- 実行する=continue with (a course of action) with a view to its completion(ある工程の完遂に向けて取り組み続ける)
- execute
- 実行する、完遂する=put (a plan, order, or course of action) into effect; successfully perform (a challenging action or movement)
- 死刑執行する=carry out a sentence of death on (a legally condemned) person)
- executive
- 取締役、経営陣=a person with senior managerial responsibility in a business
- 行政部=(the executives) the branch of a government responsible for putting decisions or laws into effect
persecute, prosecute, execute, executiveよりも頻度の高い表現にも < secu / sequ = follow > の語根が隠れているものがあります。
- a sequence of…「一連の」≒a series of…
- subsequently「続いて、次に」≒then [in turn]
- consequently「結果として」≒as a consequence [as a result]
- consecutive「連続した」
The festival runs in Hiruzen, Okayama for seven consecutive days.「その祭りは7日間連続で,岡山にある蒜山で行われます」 蒜山高原山麓の村々でお盆期間に、各神社が日替わりでお祭りを開催、老若男女が躍る「大宮踊」というものがあります。重要無形民俗文化財として登録されています。
前回の「語源探究 #4 order」で登場した表現ですね。重要多義語のorderとあわせて復習してみてください!
OSD岡山進学でざいんでは、英単語をストーリーとして紡ぐことを心掛けています。学校で指定された単語帳でコツコツ覚えていても、時間が経てば忘れます。使わなければ忘れます。何度も意識的に点検しなければ忘れます。OSDは単語学習を無味乾燥としたインプット作業とは見なしていません。単語の成り立ち(語源)を考えて関連語彙を広げていく、時にはストーリーとして紡いでいくことを目指しています。