先日のIM(中級)クラスの授業で、simultaneouslyという重要語が下線部説明問題で登場しました。語源探究第6回は、simulatenouslyから広げて紹介した重要語spontaneousを軸に、話を進めていこうと思います。まずはどんな問題だったかを紹介します。難関大をめざす受験生には、さらりと答えてもらいたいレベルです。
問題 下線部の意味内容を40字以内の日本語で簡潔に説明しなさい。
Where once we would have known and accepted that a particular job would require a reasonable amount of time to complete successfully, we now expect to do everything more quickly, do it more, and do it right now. When emails can be answered at any time of day or night, from an inconspicuous hand-held object the size of a pack of cards, we have no reason to ever stop working. However, what more and more people are discovering is that these increasing demands can make work more difficult, not easier, as the brain struggles to work simultaneously on a multitude of tasks. Because of our hyperactive, overstimulated approach, which serves to inhibit concentration rather than aid it, we can paradoxically end up achieving less.
抜粋した部分のメッセージは、以下の通りです。
「メールの返信など目の前のことに追われて,本当に大切なことに集中力と時間をかけて取り組めなくなっている。仕事を楽にさせてくれるはずの電子機器によって,現代人は絶えず働くことを、同時に多くのタスクをすばやくこなすことを求められる。しかし、成果は上がらず仕舞いだ。」
問題の答えは、たとえば、「多くのことを同時に処理せねばならず、仕事が大変になったと現代人は感じている。」(38字)のようにまとめられるでしょう。
siml, sembleは似ているなあ!
simultaneouslyは“siml, semble=似ている”から生まれた語です。
- similar「似ている」
- simulate「…をまねる、シミュレートする」
- semblance「みかけ、類似」
- simile「直喩」
- assimilate「(食べ物・知識を)吸収する、同化・融合する」
- resemble「似ている」
- resemblance「類似(点)」
- assemble「(似た者同士が)集まる」
フランス語から借用されたensembleは音楽や洋服などの「アンサンブル」… 最後のアンサンブルを除けば、難関大受験者には知っておいてほしい語ばかりです。
さて、今回の記事のタイトルになっているになっているspontaneousですが、授業では以下のように整理して紹介しました。日本語で考えずに、同義語や英英辞典の定義を確認すると、似ている語の違いを理解しやすいと思います。早慶上智大や国公立ならば大阪大でよく出題される語彙問題の対策にもなります。
- momentaneous「つかの間の、はかない」(short-lived, transient, momentary)
- instantaneous「即座の、瞬間の」(immediate, prompt)
- spontaneous「自発的な」(voluntary)、自然発生的な
- simultaneously「同時に」(at the same time)
-aneousはラテン語系の語の形容詞をつくる接尾辞です。simultaneous(ly)は、上の3つの語に真似る形で、本来存在しなかったtがくっついたものとされています。
spontってなんだ?
instantaneousやsimultaneousは語源が分かりやすいのですが、spontaneousの“spont”ってなんだ?と学生時代に疑問に思い、sp-のあたりの辞書を熟読していました。いくつかイメージしやすい語を挙げてみます。sp-から始まる語には「いきおい」を感じます。
- spring「春」「ばね」「湧き上がる」「跳ねる」 cf. hot spring「温泉」
- sprout「芽」 cf. ブロッコリースプラウト(栄養価が高い野菜)
- spread「広がる」 cf. What a great spread!「すごいごちそうだ!」 この表現のspreadは、テーブルの上に広げられたごちそうを表します。
- splash「飛び散る」 cf. スプラッシュマウンテン(ディズニーランドの人気アトラクション)
- sea spray「波飛沫(なみしぶき)」 cf. ヘアスプレー
- sprinkle「まき散らす」 cf. スプリンクラー(校庭に設置されていますよね)
- spit「唾を吐く」 cf. spew「吐く、もどす」 ちょっと汚い言葉を紹介するのはためらいますが、sp-のイメージがしやすいのでは?
- speak「話す」 speech「演説」は力強く聴衆に語りかけます。
- spur「拍車をかける、はっぱをかける」 cf. tをつけると、spurt「ほとばしる、全力を注ぐ」の意味に。ちなみに「ラストスパート」は make a final push / make one last effort と表現しましょう。
- sparkle「火花を散らす」 季節ごとの大売り出しを「スパークリングセール」と呼ぶ百貨店がありますね。
- spear「槍(やり)」 勢いよく飛び出るイメージ。
- spike「(バレーボールで)スパイクを打つ、大くぎを打ちつける」
- sprinter「短距離走者」 ……
「魂、精神」を意味する spirit も sp-仲間で「いき」「いのち」を表しますね。spiritsと複数形にすると「元気」の意味になって、raise one’s spirits「元気づける」、She was in high spirits.「元気いっぱい、意気揚々だった」など、用例をチェックしたいですね。
spiritに関連して、-spireシリーズも紹介します。「いき(呼吸)」を軸に観察してみてください。
- inspire「~を鼓舞する」
- Inspire the Next「次なる時代に息吹を与えていく」 ♪この木なんの木気になる木~で始まるテレビCMで有名な日立製作所のキャッチフレーズ(コーポレート・ミッション)として2000年4月から使われています。
- expire「(息が切れることから)契約等が満期となる」
- Your subscription will expire with the June issue.「あなたの定期購読は6月号で切れます」 サブスク(subscription)は今では様々な商品・サービスで使われる語になりましたが、もとは「(雑誌や新聞の)定期購読」という意味です。動詞形subscribeは自動詞になると、〈subscribe to+名詞〉で「~に署名する、~に同意する」という意味になります。阪大の語彙問題で問われたことがありますよ。
- perspire「発汗する」 汗をかくと息がぜぇぜぇはぁはぁします。
- Genius is one percent inspiration and 99 percent perspiration.「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」 汗をかいて努力せよ、というメッセージでしょうか。inspireとperspireが同時にマスターできるお得な例文です。
- aspire「熱望する」 憧れの対象に向かって、はぁっとため息をつくイメージでしょう。
- Most people just want to be normal, while some aspire to greatness.「大部分の人はふつうでいたいと思うのだが、大物になりたいと熱望する者もいる」
- conspire「陰謀を企む」「事情が相重なって(悪い方へ)…する」 一緒に(com)呼吸するイメージです。2つ目の意味は work together to cause a certain result と説明してもいいですね。
- In the twenty-fiest century, as never before, we live our lives in ways that conspire to make it increasingly difficult to concentrate.「21世紀において、かつてなかったほどに、私たちは(いくつもの事情が重なって)ますます集中しづらくなってしまう生き方をしている。」 本記事の冒頭で紹介した問題と同じ文章から抜き出しました。難関大ではこの2つ目の意味のconspireの意味が問われてもおかしくないと思います。
ビタミンCやβ-カロテン、葉酸などを多く含むブロッコリースプラウトは以前から注目されている野菜です。野菜売り場でもやしやかいわれと同じ棚に陳列されているはずなので、今度ぜひ食べてみてください。スルフォラファンという成分がブロッコリーの10~20倍も含まれていて、体の解毒力や抗酸化力を高める酵素の生成を100種類以上促し、体内のあらゆる臓器で活躍! 最近では、うつ病などの精神病に対する働きについても研究が進んでいる、まさに「いのち」を作る食品です。
「春」の語源
草木の芽が出てくることを「芽がはる(張る)」と言います。土の中から目がぼこぼこと張ってくることから、「はる」が「春」の季節を表す言葉となったという説があります。ほかにも、冬空を覆っていたどんよりとした雲がなくなる、「空がはる(晴る)」状態を「春」の語源とする説や、「田畑をはる(墾る)」季節からだという説もあります。
英語のspringは、14世紀ごろにspringing time「飛び跳ねる季節、芽吹く季節」という表現が登場したのがきっかけ。それまでは「日が長くなる季節」を意味するlenctenという古英語が使われていました。longの語源でもあります。
音の響きを大切に
張る(HARU)、晴る(HARU)、墾る(HARU)、原っぱ(HARAPPA)、昼(HIRU)(春から夏に向けて日がどんどん長くなります)、披露宴(HIROUEN)(春先から初夏にかけて結婚式が多くひらかれます)、開く(HIRAKU)、拓く(HIRAKU)、広い(HIROI)… 「春」を連想する日本語には“HR音”が含まれているものが多いような気がします。こじつけだと言われてしまえば、何も言い返せないのですが…
「単語にはもちろん意味がある。それでは、音そのものには意味があるのか。」
これはプラトンの『対話篇』でも議論されているほど歴史ある問いで、言語の本質にかかわる議論です。これまで言語学の世界では「音と意味の恣意性」は当然のことと片づけられてきましたが、音象徴(おんしょうちょう;音そのものがある特定のイメージを喚起する事象)を扱う研究者が21世紀になってから増えています。この記事を書いている筆者が学生だった頃、こういうことを教授に質問しに行ったら怒られていたかもしれません。
実は、ウルトラマン、ドラゴンクエスト、さらにはポケモン(ポケットモンスター)まで、漫画やゲームの世界に登場するキャラクター名を音象徴の観点から分析・研究している学者もいます。
OSDの授業では、音象徴という言葉こそ出しませんが、皆さんの記憶の助けになるような“音と意味のつながり(?)”を積極的に紹介していきます。
語源探究第6回はこのあたりでおひらきにしたいと思います。